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「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

誰も知らない

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『ワンダフルライフ』『ディスタンス』の是枝裕和による、劇場用長編第4作。1988年に東京で実際に起きた「子ども置き去り事件」をモチーフにし、母親に置き去りにされた4人の子どもたちが、彼らだけの生活を続ける約1年を描いている。柳楽優弥がカンヌ映画祭において、最優秀男優賞を史上最年少で受賞した。
 淡々と日常を描いて、これほど観客の心に響く映画はない。
 育児を放棄した母親を、強く抗議するとか、福祉事務所によって兄弟が引き裂かれるとか、そういうドラマチックなシーンはまったくない。ただただ、お金がなくなり電気が止められ、水道が止められていく一年間を子供たちが生きていくところを描いている。特に長男の明が責任感を持って兄弟の世話をしながら、それでも子供らしい「友達が欲しい」「遊びたい」という願望にさいなまれて、学校や町を彷徨うところが胸にせまる。末の幼い妹に対する思いは、「火垂るの墓」を思い出してしまう。周囲の大人にわざとらしい悪人がいないのもいい。むしろ、こっそりと残り物を分けてくれるコンビニの兄ちゃんとか、人間に絶望しないようなメルヘンにもなっている。
 そして、映画の後半、観客の心を代弁するかのように、彼らに寄り添ってくれる、登校拒否の高校生のお姉さん。
 この映画は、声高に「糾弾」や「抗議」をする物語ではない。それだからこそ、観客の心には、「子供の成長」に対する強い責任感と、子供に注ぐ優しい視線が芽生えるのである。
 いい作品に出会えた喜びを感じられる作品です。
 末娘の「ゆき」をみてて、自分の娘の5歳ぐらいのころが思い出されて、涙が出てきましたよ。長男の気持ちを察している長女の「京子」もいい子です。兄弟たちの優しさは、作られた演出を感じさせない。ぐいぐいと映画に引き込む力を持っている。
 一年間の間に、子供たちの母に対する気持ちは変わっていく。最初は不安、そして母の帰らない絶望。だが、映画のラスト、少し突き放したような終わり方は、子供たちの心が渇いた諦観になっていることを示している。
 「誰も知らない」のは、この子供たちのサバイバルではない。その子供たちの心こそ、「誰も知らない」のだ。
誰も知らない」
by hajime_kuri | 2005-04-23 09:11 | 映画