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「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

「春の道標」(黒井千次)新潮文庫

「春の道標」(黒井千次)新潮文庫_a0003784_233011.jpg 恋愛もの、とか初恋ものといわれる小説には、極めて冷笑的な態度を取るひねくれ者の私が、さめざめと涙してしまった小説である。17歳の明史(あけし)と、通学路で出会った髪の長い美少女15歳の棗(なつめ)の1年間の出会いと別れを描いている。舞台は戦後すぐ、でもそんなことは関係ない、この物語には誰もが通過した「ささやかな初恋」と通じる普遍性があるからだ。
 中学生の棗は春から明史の高校に通うことになっている。

 「お友達になってくれる?」
 「お友達?」
 「さよならはできないもの…私たち」
 「毎日会って、同じ学校に通って、お互いに好きで、そして丘には行けないで…お友達?」
 「地獄だよ、そんなの」
 「なれると思う…」
 「……」

 ここで俺は泣いてしまった。




 丘とは、二人がそっと抱きしめ会った場所である。
 これは、少年の、控えめな、ささやかな恋が、静かに終わりを迎える瞬間である。
 最後のページを閉じたとき当時27歳だった俺は、17歳の時の心に戻り、流れる涙を止めることが出来なかった。作中の明史さえ涙を流していないのに。
 実はそのとき、出勤前の朝方で、意外に早く目が覚めてしまった私は、高校教師の父の机上にあったこの本を手に取り、寝床の中で読んでいたのである。その深い感動を、少しでも長く噛みしめていたかったので、その日は仮病で会社を休んでしまいました(告白)。
 この作品は、1981年度の読書感想文コンクールの課題図書になっているので、読んでいる人も多いかもしれない。それにしても俺のような読書ずれした野郎を泣かすとは、課題図書も侮れないではないか。
 未読の方は、騙されたと思って読んでくれ。
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黄金の樹

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作者・栗林元は小説を書いています。よろしければお読みください。(Kindle版です)

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by hajime_kuri | 2004-02-25 23:31 | 青春