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「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

「ザ・ムーン」(ジョージ秋山)



40年ぶりに読んだ作品である。
現在、コミック誌「IKKI」にて連載されている「ぼくらの」(鬼頭莫宏作、アニメも昨年オンエアされた)が実に俺の心をとらえているのだが、この作品のインスパイア元となったのが、この「ザ・ムーン」(1972)なのである。
どうしても読みたくて、長らく絶版になっている小学館コミック文庫版をアマゾンのマーケットプレイスで入手したわけだ。
物語は、サンスウ・シャカイ・カテイカ・タイソウ(サンスウの弟)・ズコウ・リカ兄弟(双子)・オンガク・ヨウチエン(オンガクの弟)たち9人の子供たちが行方不明になるところから始まる。
子供たちはある人物から、巨大な力を与えられて帰ってくる。その力こそ、巨大ロボット「ザ・ムーン」なのだ。
その人物とは魔魔男爵。力が支配する現代の社会に深く絶望した男爵は、アメリカの宇宙予算に匹敵する2兆5000億円を投じて正義を実現する究極の力「ザ・ムーン」を作り上げたのだ。
しかし、男爵は大人を信じない、勇気も正義も、まだ純粋な子供たち、しかもその9人の子供たちの心が一つになったときしか、ザ・ムーンは起動できないのだ。
どう?
すごく魅力的な設定じゃないですか。ストーリーも一筋縄ではいかない。



第一話「大日本正義軍の平和」
「力なき正義は無意味」と叫び、正義を実現するために水爆を使って現秩序を崩壊させようとする若者たちの秘密結社に、少年たちは戦いを挑む。この話では、いきなり読者に対して「正義対悪」という居心地のよい二元論を粉砕してみせる。サンスウが敬愛する先輩・流さんは、非の打ち所のない人格者であるが秘密結社のメンバーである。そして最後に任務の失敗の責任をとって割腹自殺する。
サンスウに言い残す言葉が次のようなものだ。
「人は誰でも、正義を愛し、平和をもとめる。ただ、その愛し方が違うだけなのだ」
この世の争いはすべて、正義対悪ではなく、正義と正義のぶつかりあいなのだ。
なんという重さであろう。同年、少年ジャンプで「マジンガーZ」が連載(1972年10月2日号 - 1973年8月13日号)されている時、少年サンデーでは、この「ザ・ムーン」が連載(1972年14号から1973年18号)されていたのだ。日本のコミック文化の奥深さをあらわす話だと思う。
最後、ザ・ムーンは少年たちの願いをかなえ、自らの命と引き替えに水爆の爆発から日本を守る。

本来は、ここでこのマンガは連載終了だったのではないかと思える。しかし、連載は続いた。
秘密の力を持っていることが明らかになった少年たちのもとに、様々な人間が集まってくる。第二話以降は、それがストーリーを転がしていくようになる。

そして、衝撃の最終話「白原に死す」
かつて、これほど暗澹たるラストがあったであろうか・・・。当時、中学生の俺は、この後、大人の社会に出ていく勇気を失うほどのトラウマになった。そんな読者が多かったのではないだろうか。
そんな読者の一人が、21世紀になって、自分なりの「ザ・ムーン」を生み出した。それが「ぼくらの」である。

※主人公たちの心がそろわないと、ザ・ムーンは起動しない。だから物語の中で、ザ・ムーンはなかなか動かない。動き出しても、子供たちの考え方の違いで歩みを止めてしまうことさえあるのだ。秀逸なメタファーである。

※少年たちを陰から守る糞虫(くそむし)というキャラクターが登場する。男爵の僕である。巨大なザ・ムーンの最大の弱点は、子どもたちだ。その子どもたちを暴力や脅迫から守るには、同様に力を奮う存在が必要悪として存在せざるをえない。それが糞虫なのだ。糞虫自らが、「糞でございます、触るのも汚らわしい糞でございます」と自らを表現する。当時の記憶では、この糞虫は男爵の息子だったような気がしていたが、今回読み返したところ、特にそんな設定はなかった。

※息子17歳が、「ザ・ムーン」を読んで、「びっくりした、このラスト」と。今なら、当然「ヤング・サンデー」の方で連載されるところだろうね。

ザ・ムーン (1) (小学館文庫)
ザ・ムーン (2) (小学館文庫)
ザ・ムーン (3) (小学館文庫)
ザ・ムーン (4) (小学館文庫)
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by hajime_kuri | 2008-12-16 15:02 | コミックス