「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

カテゴリ:ホラー( 7 )



ホラー小説の名手・小林泰三の短編集である。
五編のうち四編が一人称、さらに残りの一編も語りの視点は一人称だ。なぜなら、今回のこの五編の作品はすべて主人公の主観が物語の進行にあわせて揺らいでいく様子こそが眼目になった作品なのである。
読んでいるうちに軽い目眩を覚えてくる。展開は少し強引だが魅惑的な作品集である。
この主観の揺らぐ雰囲気は、夢野久作を思わせる。特におすすめは「双生児」かな。

完全・犯罪


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作者・栗林元は小説を書いています。よろしければお読みください。(Kindle版です)

1988 獣の歌/他1編・栗林元

神様の立候補/ヒーローで行こう!・栗林元

盂蘭盆会●●●参り(うらぼんえふせじまいり)他2編・栗林元

薔薇の刺青(タトゥー)/自転車の夏・栗林元
小説指南
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by hajime_kuri | 2011-07-08 11:27 | ホラー | Comments(0)


なんとも不思議な小説だ。
太平洋戦争前の昭和と思える時代背景。爬虫類のような外貌の爬虫人(ヘルビノ)の下男。サディズムとエロスとユーモアとグロテスクに満ちた物語。でも気がついた、これは丸尾末広のマンガを活字にしたわけだ、と。
特に、「雪麻呂ぼっちゃん」の応援歌(何の応援かは読んでからのお楽しみ)のくだりは、もう丸尾キャラが日の丸の扇子を振っているところに、リボンや紙吹雪が舞うが如き絵が浮かんでしまった(苦笑)
解説を読むと、作者はかつて漫画家を目指し、「ガロ」に持ち込みをしていたというから、これは丸尾末広の活字版という指摘は、あながち的外れでもないのだろう。むしろ、それを確信犯的に行う小説家は今までいなかったのだからユニークでもある。
というわけで、この作品に登場するキャラクターたち、すべて俺の頭の中では、丸尾末広のキャラで描かれてしまうわけである。爬虫人の下男・富蔵が「ぼっちゃん」と言うシーンなど、俺の脳内では、丸尾末広の「薔薇色の怪物」(「夢のQ作」だったかもしれない)の作品に出てくる赤座というキャラが被るわけである。
解説には、軍国主義の支配する物語の舞台設定に対して「日本の過去の帝国主義思想とアジア諸国に対する傲岸な態度を皮肉ったもの」という指摘があったが、それは考えすぎだろう。
作者は「丸尾末広」がやりたいのである。
ヨーロッパの作家がサディズムを描くのにナチスを使うのが便利なように、日本の作家にとっては、昭和の軍国主義が都合がよいのは丸尾や団鬼六を見ればわかるだろう。
そして昭和の軍国主義は、現代では皮肉的に描くしかないじゃないですか(苦笑)。
丸尾末広は軍服をモチーフにして、泥絵の具で描いたようなエロスやサディズムを描写する。
そう思えば「粘膜蜥蜴」は昭和のホラーでもあるのだろう。

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

※リンクは別ウインドウで開きます、悪しからずご了承ください。
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by hajime_kuri | 2009-10-17 12:33 | ホラー | Comments(0)
a0003784_20353827.jpg
父に連れられ、ソウル郊外の家に帰ってきたスミとスヨンの姉妹。
2人を迎える若く美しい継母のウンジュ。
姉のスミは異様なまでに妹スヨンを気遣い、ウンジュへの不信を顕わに。
その日から、家の中で奇妙な現象が起こり始める。
姉妹を襲う悪夢、ウンジュの視界に映る不気味な影。
不安から、継母と姉妹の関係はさらにこじれていく。
恐怖が限界に達した時、スヨンの部屋の箪笥の中で、隠された家族の秘密が明らかになる。
というのがあらすじ。
スミは何らかの心の病を持っている。ウンジュもまた同様らしい。というところが伏線ね。
しかし、すぐれたホラーですよこれは。すごく俺好み。
映像がまた綺麗なんだ。
主人公の姉妹がまた綺麗でうまいんだな。すっかりファンだ。

モンスター出てきません。殺人も起きません。

でも怖い。
すごく怖い。人の心の抱える、憎しみとか怒りとか悲しみが怖い。
心が怖い。

ネタばれしないようにすると、賛辞の羅列になってしまう。
貞子もいいでしょう、伽耶子もいいとしましょう。
でも本当に俺が見たかったホラーはこっちなんだよな、日本映画界の関係者の皆様方よ。
こういうホラーを作ってくれよ日本でも。
ということで、ひるがえって邦画関係者には本当にホラーをわかっている人間はいないのではないかと感じたしだい。
DVDが出たら、まちがいなく買い。
ホラーに関してなかなか誉めない俺が、手放しでここまで誉めるなんて、やるなキム・ジウン。
※スピルバーグがリメイク権を買ったそうだが、すごく心配だ。まあ、「激突」を撮れたんだから大丈夫とは思うが(心配)
箪笥A TALE OF TWO SISTERS
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by hajime_kuri | 2004-09-20 15:21 | ホラー | Comments(3)
a0003784_221614.jpg幽霊屋敷と噂される〈丘の屋敷〉。心霊学者モンタギュー博士は三人の協力者を呼び集め、調査を開始した。迷宮のように入り組み、彼らの眼前に怪異を繰り広げる〈屋敷〉。そして、一冊の手稿がその秘められた過去を語りはじめるとき、何が起きるのか?
傑作中の傑作である。ヘルハウスものの古典。幽霊屋敷調査に訪れた一行を襲う怪現象。
しかし、読みようによってはすべて登場人物たちの幻覚ともとれる。この曖昧な不安がすごい。
エリーナという不幸な生い立ちのエスパーが主人公だが、この人物の掘り下げがうまい。だまされたと思って買うべし。再読・再再読に堪える家宝のような作品だ。私は毎年1回は読むことにしている。
ホラーの教科書。俺はハヤカワから出ていた「山荘奇談」というタイトル時のものを読んでいる。
映画「ホーンティング」の原作だが、個人的にはロバート・ワイズ監督の「たたり」が一番だな。原作の恐怖感がよく出ていた。
たたり創元推理文庫←アマゾンへGo!
ホーンティングThe Haunting←アマゾンへGo!

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作者・栗林元は小説を書いています。よろしければお読みください。(Kindle版です)

1988 獣の歌/他1編・栗林元

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by hajime_kuri | 2004-06-17 22:17 | ホラー | Comments(0)
a0003784_104724.jpg「場の魔力、場の魅力」

私たちの高校には伝説がある。
三年に一度、卒業生から在校生に継承される「サヨコ」の役。
サヨコには義務がある。サヨコをつとめる者はだれにもそれを悟られてはならない。その年の文化祭での全体講演の劇「サヨコ」のシナリオを書かねばならない。サヨコを勤めることを承諾した印に、一学期の始業式にクラスに赤い花を飾ること。
サヨコが無事に勤められた年は、学校にとってよいことがある。逆に失敗した年はよくないことが起きる。
そして、今年は六番目のサヨコの年でした。

どうです、この設定でもう私はKOされた。「やられた」と思った。読まずにはいられない。
さらに、この年のサヨコは「二人いた」のだ。
校内に伝わる「サヨコ伝説」はなぜ始まったのか?
なぜ続いているのか?

伝説が途絶えようとした年もあった。しかし、それを補強し伝説の継承を助けただれか、何かがいたのでは?私(読者、ちなみに43歳男)は、伝説の謎を追いかける高校生達と一緒に、あの頃に戻っていた。この物語のいとおしさは、帰らぬあの時代の思い出に物語を重ねてしまう私の世代には特に効く。読み進むうち、舞台の教室・廊下・校舎が自分の母校になり、登場人物は同じクラスの連中になった。(ひょっとすると、スティーブン・キングのハイスクールものホラーを読むアメリカのおじさんおばさんもこんな感覚を味わっているのかもしれないなあ)
学校という閉ざされた装置を舞台に、テイストはホラーなれど、作者が描く(しかも上品に、今時なんと貴重なことだろう)のは輝ける「17歳」たちの恋と冒険だ。
だが本当の主人公は作者の筆で緻密に描写される学校という、いわば「時の流れの止まった場」だ。この「場の持つ魔力」こそが、この物語の主題なのであろう。
このテーマは、学校から故郷に装置を移して恩田陸の続く「球形の季節」でさらに鮮明な形を取る。
これもおすすめだ。
恩田女史自らが脚本化を手がけたNHKドラマ「六番目の小夜子」(DVD発売中)も必見だ。微妙に登場人物が変えてある。しかも、美少女てんこもり(笑)

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※この記事は、私の別ページ「1行ブックガイド」「デジタル文芸」から転載したものです。

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by hajime_kuri | 2004-06-17 10:48 | ホラー | Comments(3)
a0003784_12273.jpg「アイリッシュ・ヴァンパイア」を紹介したついでにもう一つ吸血鬼譚。
少し古いけど90年代の作品。
舞台は現代のアメリカ西海岸。主人公は長い歴史を持つスプーア一族の長子である。両親の離婚後、会ったこともない父から遺産相続のため、三ヶ月、所有する城で暮らすべしという手紙がくるところが物語の発端である。
物語は登場人物の手紙・日記・宿題などの書簡のみで構成されている。それ自体は別に珍しくもないが、登場人物たちの「同性愛的」な問題などが鍵になっていて「その気」のない小生も少し「どきどき」してしまった。セピア色の薔薇の力で過去を幻視しする謎の父親、その目的は本当に遺産を相続させるためだけなのか?
「薔薇の力」、「不死」、「少年」とくるとこれは往年の名作「ポーの一族」じゃんというあなた、鋭いよ。でも萩尾望都さんの方が古いから、ひょっとしてインスパイアされたのはルイス・ガネットか。むしろ両作品に共通の発想のもととなった、西欧のオカルティックな知識に、当時の萩尾女史が精通していたというところだろう。ガネットにとってこの「七百年の薔薇」が処女作だというから肉食人種はすごいなあ。
ということで、この作品はモダンホラーの傑作であると同時に甘美な「ボーイズラブ」ものにもなっている(笑)
特に、女性にお勧めしたいホラーである。

七百年の薔薇 (上)ハヤカワ文庫 NV (921)←アマゾンへGo!

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by hajime_kuri | 2004-05-09 12:27 | ホラー | Comments(0)
アイルランドを舞台にした「吸血鬼譚」4遍を納めた作品集である。近年、東欧がルーツと考えられてきたヴァンパイア伝説のさらなるルーツはアイルランドのケルト信仰ではないかと言われている。それを下敷きにアイルランド出身の作者が書き上げたものだ。
考えてみると、ヴァンパイアという異教的存在は、ケルトともすごくマッチする。
この作品集は、少し古典的なホラー小説である。バイオレンスやグロテスクという表現はない。じわじわと押し寄せる恐怖である。
それが俺好み。
吸血鬼譚には傑作が多い。
古いところではキングの「呪われた町」、日本ならそれにインスパイアされた小野不由美「屍鬼」でしょう。
吸血鬼譚は作家の創作意欲も魅了するテーマなのである。
吸血鬼譚に対する作家のアプローチは、大まかに下記の2系列だ。
・伝染恐怖=エンターテイメント系アプローチ
ペストなどの伝染病に対する恐怖がバックボーンになっている。噛まれた被害者がどんどん吸血鬼になっていく。追いつめられると、自分も吸血鬼になってしまおうか、と思いたくなるほど。私自身、類似の夢を実際に見た。
これは、自分が自分であることを通していくのが難しくなった、現代の都市生活者や会社勤めの人間には身に迫る感覚ではないだろうか。組織を維持するために、黒いモノを白いと言わなければならないケース。やがてはそれに慣れてきて、本当に白く見えてきてしまう、という経験はないだろうか。
このケースの最右翼が「呪われた町」である。マキャモンの「奴らは乾いている」もそう。ゾンビものもその亜流の一つだろう。同調圧力に対する恐怖である。
・吸血鬼の持つ儚さ=やや文学系アプローチ
日中は無防備状態で昏睡し、血以外を受け付けない体。ある意味、凄く弱い生き物である。この儚さと同時に永遠に続く命、というところから、吸血鬼譚は、「生きる」とか「愛」をテーマに語ることもできる。そのよい例が、萩尾望都の「ボーの一族」や、ルイス・ガネットの「七百年の薔薇」である。小野不由美の「屍鬼」が際だって優れているのは、この部分もしっかりと描いている点。

ホラーの中でも特にヴァンパイアものに関しては、うるさい私が満足した作品集である。再読に耐える作品集だから、買っても損なしだと思う。
ホラーファンなら必読の本でしょうな。

目次

炉辺にて
森を行く道
乾涸びた手
仕えた女

アイリッシュ・ヴァンパイア
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by hajime_kuri | 2004-03-08 23:00 | ホラー | Comments(0)