「ほっ」と。キャンペーン

「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri
 自分で小説を書いたりマンガを描いたり映画を作ったりするようになると、作品に張られた伏線だけで、今後こうなるだろうなという予想がついてくる。また否応なくそんな鑑賞のしかたをするようになる。今回は、「スターウォーズ・フォースの覚醒」でそれをやってみよう。

 スターウォーズのエピソード4から6は、ルークとベイダー(アナキン)の父と子の確執がドラマ部分で描かれた。そしてエピソード1から3はそのアナキンが大切な人を守るがために暗黒面に落ちるまでが描かれる。
 今回の「フォースの覚醒」から始まるシリーズは、カイロ・レンとハン・ソロの父と子の確執があり、この暗黒面で迷うレンが光の面に回帰するまでが描かれるであろう。
 レンは父ハン・ソロを殺すことで、同じく父を殺したルークと同じ力を得ようとしたのかもしれない。二人は師弟対立(これはアナキンとオビワンの関係に相当する)を最終的に解消するんだろうなと思うが、「父殺し」という闇を心に抱えることに「哲学的フレーバー」をまぶすであろう。

 一方、ヒロインのレイはエピソード4のルークとレイアを一人で体現したキャラだ。女の子というのが同時代性である。一見、フィンがルークっぽく感じられるが実は第一作ではせいぜいC3POに相当する役だ。彼が黒人であるのもそのためか。
 このあたり、マイノリティーに配慮してアジア系の役者使うし、メインのキャラに黒人も使っていますよ、でも白人女性と黒人男性のヒーローとヒロインはまだ時期尚早かな、というハリウッドのスタイルだ。この予想を裏切って来るならすごいと思うが。

 では、レイと結ばれる王子様が誰かというと、それは間違いなくカイロ・レンなのだ。最初の出会いのシーンでマスクをとって美貌をさらしている。この講師ブログでも語ったが、「美しい容貌と残虐な心」という「二律背反」は、悪役キャラ造形のまさに教科書どおりだ。レンとレイの、敵愾心と憎悪の関係が、恋に変わっていくところが「ドラマなのだよ」って脚本家の、「どんなもんだい」的な声が聞こえてきそう。

 またレンは光の側に帰ってくるのだが、母レイアは反乱軍の将軍だ。将軍という立場ではレンを許せば部下の不満は目に見えている。揺れるレイアのドラマがあり、それを知っているレンは最後の悪との戦いで命を捨てるって展開もあり。だが、ラストシーンで、フォースの目覚めたレイは、スピリチュアルな世界でレンやソロやルーク(当然ルークはシリーズの途中で死ぬと思う。三部作になるならエピソード8の終わりか、エピソード9の冒頭でしょう)達の魂が生きていることを知り悲しみから立ち直る、ってところでエンドかな。
 フィンは当初名前すらなく、子供の頃にさらわれて兵士として教育されたストームトルーパーという設定。まさに、子供の頃から敵への憎しみと殺人術を教育されたテロリストの少年兵を思わせる。フィンの役割は、この「少年兵」の人間性回復ドラマなのではないかとも思える。現在の国際社会で問題となっている「少年兵問題」、これもまた作品の同時代性であろう。

 いやあ、おもしろかった。ってすっかりシリーズ見てしまった感じだが、制作者達が、どれだけ私の予想を裏切ってくれるか楽しみです。
 この文では言及しなかったけど、レイがスカヴェンジャーを続けながら、指折り数えて待ち続けた誰かか何かにも何か伏線があるんだろうけど、これはエピソード8でわかってくるんだろうなあ。


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1988 獣の歌/他1編

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# by hajime_kuri | 2016-03-04 16:03 | 小説指南 | Comments(0)

電子出版について

 小説を書き上げると、どうしても人に読んで欲しいものである。特にエンタメ系の作家であれば、読者の「面白かった」「次はどうなるんですか」という賞賛や期待の言葉が欲しい。お金よりももっと、読者の反応が欲しいのだ。
 私は三十二歳の時にコンテストに佳作入選したが、出版社のコンテストでなくテレビ局の賞だったので作品が活字化されることはなかった。大賞受賞者の方の作品も「映像化」されただけである。
 そのころに始まったのがインターネットの商業利用解禁だった(95年ごろ)。
 作品の発表の場を求めていた私にはこれは渡りに船だった。早速HTMLを覚えて、テキストエディターでソースを打ち込んで「デジタル文芸」というWEBサイトを立ち上げた(97年正月)。
 当時は、小説に限らず、評論やマンガなど腕に覚えのあるサブカル系の人間がインターネットに活躍の場を求めて集まったので、読み応えのあるコンテンツが多かった。当時知り合った書き手の人たちとは、今でもSNSを通しておつきあいがある。私のサイトや作品も雑誌などで紹介していただいた。

 現在は、Amazonのキンドルなどで無料で電子書籍をリリースできるようになった。私の過去作品もアップしてちょくちょくダウンロードされている。今はワードや一太郎で作り上げた作品を電子書籍のファイル(EPUBやmobi)に変換できるようになった。私自身は、テキスト原稿をSigil(シジル)という無料ツールでE-Pub形式に整形し、Kindleのジェネレータソフトでmobiファイルに変換している。このような面倒な方法をあえてとっているのは確実に縦書きに対応させたいので、CSS(カスケーディングスタイルシート)のソースを編集するためである。

 最近はWEBを舞台にした文芸コンテストも数多くある。ぜひ電子書籍のリリースに挑戦してもらいたい。ただ、今のところ、電子書籍が玉石混淆であることは否定できない。読者に対して自分の作品のクォリティーを担保するためにも何らかのコンテストでの入選実績は欲しいものである。

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# by hajime_kuri | 2016-02-22 07:48 | 小説指南 | Comments(0)

伏線を張るということ

 小説に限らず物語を語る場合、ストーリーには何らかの伏線を張るものである。
 伏線とは、ストーリーの前半に提示した事や物や状況が、物語の後半やクライマックスで意味を持っていた事がわかり結末に影響するというものである。

 例えばこんな感じ。

 いつも腕時計にアラームを設定している主人公が、よくそのアラームを忘れて失敗してしまうエピソード。会社に遅刻して上司にこっぴどく怒られるのだが、原因は彼がなかなか腕時計の設定方法を覚えられないこと。そこで、恋人が腕時計を設定してくれて、「リセットできないようにしておいたね」と言う。
 物語のクライマックスで、殺人鬼から身を隠すシーン。読者には腕時計のアラームが鳴る時間がわかっていて、そのアラームが鳴ってしまうと殺人鬼に見つかるけど大丈夫かよ?っというサスペンスで引っ張る。
 アラームの音がして、そこに隠れているのかと、ほくそ笑む殺人鬼がクローゼットを開けると、そこにははずした腕時計があり、その隙に主人公は逃げる。

 このように最初から回収の方法を決めて張る伏線とは別に、特に意識せずに描写した状況や人や物が、物語の進行にあわせて意味を持ち「結果としてラストで伏線として回収」される事も多い。
 書きながら、ああ、この人物はこのために俺の脳裏に浮かんできたんだと気づく事も多い。むしろ、作品を書きながらこのような反応が起きる場合の方が面白い作品になる。
 この化学反応は、物語を「説明」ではなく「描写」で語ってくる方が起きやすいようだ。
 作家は、机やパソコンやノートに向かっている時以外も、日常のいつでも脳のどこかで作品について考え続けている。それが意識上に浮かんでくる瞬間が、いわゆる「降りてくる」とか「ゾーンに入る」瞬間なのだと思う。


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# by hajime_kuri | 2016-02-15 09:09 | 小説指南 | Comments(0)
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北極大陸15号配信開始

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# by hajime_kuri | 2016-02-01 22:40 | 俺の作品 | Comments(0)
 あけましておめでとうございます。

 さて、本講座も、めでたく二回目の正月を迎えることができた。今回は、開講以来、生徒のみなさんと接していて、逆に私が学んだことについて書いてみたい。

 まず、「文章を書く」ということが「小説を書く」に発展することは、「語り方」の問題だと気づかされた。「話すこと」が「物語を語る」ことに発展することなのである。小説とは、文章表現による「話芸」だということだ。話芸としての小説表現に意識を向けることができたのである。

 次に、実際に小説を書いている際に「筆が止まる」ことがあるが、その仕組みがよく分かった。
 筆が止まる場合の理由の一つは、人物や背景の「設定」が甘いことが多い。書いているときに迷って筆が止まるのだ。この対策は、書き出す前に「よく考える」である。
 もう一つの理由は、情景や状況のイメージ力の弱さだ。キャラの気持ちなどを想像する力不足もある。この対策は、舞台背景となる場所や状況を「よく調べる」である。体験してみる、行ってみるということもある。また、登場人物の心や気持ちを知るためには、人と交流してその心の動きなどに敏感にならねばならない。

 最後に、小説を書き始めた頃の自分の気持ちを追体験できた。これは実際に小説を書こうとした人にしかわからない気持ちで、「書き急ぎ、書き焦り」とでも言えようか。
 物語には緩急があり、急の前には必ず緩やかなシーンが必要になる。物語は「誘い、じらし、満足させる」の繰り返しで進んでいく。この「じらし」の段階で書いている作者もじれてしまうわけである。速くクライマックスの盛り上がるシーンを書きたい語りたいのだ。
 このシーンで読者は退屈してしまわないか、といった不安を感じたりもする。

 このようなことを、生徒さんとの対話の中で再発見してきた。この「小説指南」を始めて本当によかったと感じている。
 今年も、色々な方と知り合いになりたいと思っている。どうかよろしく。


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# by hajime_kuri | 2016-01-01 23:42 | 小説指南 | Comments(0)

世間は狭い

意外と世間は狭い。

その1
昔、テレビを見ていたところ父親が、「あれ」と声を上げた。
番組は特撮ドラマで、そのシナリオライターが大学の同級生だというのである。
あの作家の辻真先さんだった。
父は名古屋大学の国文科で辻先生と同級生だったのである。

その2
読書家の母は、読む本がなくなるとちょくちょく私の書棚をあさりに来るのだが、そんなときに「あれえ」と声を上げた。
「現代マンガの全体像」という本を手に取っていて、「これサトシ君だがね」というのである。
「これは、私の敬愛する呉智英(くれともふさ)先生の著作である」という私に、母は、これは従妹のサトシだよ、と言うのである。
学生時代から敬愛する先生は、母の従妹であったのだった。


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# by hajime_kuri | 2015-12-21 10:20 | 日常 | Comments(0)

「小説指南」発売開始!

私の5冊目の電子書籍「小説指南 こんなに小説が好きなのに、どうして書けないんだろう俺って人のための45講」がリリースされました。
小説創作の流れを「細分化」して、発想を膨らます脳内作業を「可視化」、その上で誰もができるように「標準化」した、いわば小説創作作業の「カイゼン」の書である。
太平洋時の12/3~12/5まで、無料ダウンロードキャンペーン実施。
奮ってダウンロードください。
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# by hajime_kuri | 2015-12-02 22:56 | 小説指南 | Comments(0)
自己出版のお知らせ電子フリーペーパー『北極大陸』第13号を発行します。表紙の写真は長野県今井市のりんご農園。このサンフジは適度な甘さと酸味、食べ応えの良さなど、本当に美味しいです。
今回の内容は、栗林元が12月にKDPでリリースする「小説指南」の連載より「作品を書いて気づくこと」を一部抜粋して掲載。
弾射音さんの『凌聖愚遊《りょうせいぐゆう》』は、第四回目。調査が始まります。
まあぼさんお『戦え!宇宙キッドの作り方』は第13回目。第11回目の対アイアンライノ戦に登場した、ブルゴニア共和国の戦闘機、J21aブリクストです。


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# by hajime_kuri | 2015-12-01 23:07 | 俺の作品 | Comments(0)
 今、昭和十八年を舞台にしたSF小説を書いている。小説に限らずフィクションとは「嘘」であるが、SF小説は特に読者の予想を裏切る「大嘘」でなければならない。このような大嘘に必要なことこそ細部のもっともらしいリアリティーである。
 そのリアリティーを出すためにどのようなことをしているかを、少し種明かしする。

 当時の地方の国鉄(今のJR)駅を描写するために、駅に掲示されていたかもしれない同じ時代の広告ポスターを調べた。そこで、某企業の広告の戦中の広告の変化を知ることができたので、登場人物が、駅に貼られたそのポスターが半年前より戦時色が強まったことを感じる描写を入れた。
 このように、資料を当たることでシーンが思い浮かぶ。逆に言えば、ここまで煮詰めてから書いているということだ。そうすればいったん書き始めた後に筆が止まると言うことはあまりなくなる。

 リアリティーというのは「モノ」や「現象」だけでない。当時の人々の感覚も重要である。例を挙げてみよう。

 昭和十八年の作中で語られる「写真」や「映画」は大半がモノクロだ。だから、カラー写真やカラーフィルムが出てきた場合は、登場人物は「お、天然色(当時の言い方)だ!」と思わねばならない。ちなみに、昭和の五十年代に広告業界に就職した私は、「モノクロフィルムの方がカラーフィルムより高額」になっていることを知って驚いたものである。

 同様な世間一般の意識の変化は、男女関係、教育関係など社会全体に及んでいる。インターネットのおかげで「モノ」や「現象」のリアルは資料がすぐ手に入るが、この社会意識のリアルは、作家のセンスや想像力が必要だ。

 このセンスが磨かれていれば、幻想小説などで架空の世界の構築をする際にもリアルな世界を構築できる。広く社会に目を向けて、センスを磨いてほしい。


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# by hajime_kuri | 2015-11-29 11:56 | 小説指南 | Comments(0)
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毎回、ご愛読いただいているこの「小説指南」講師ブログ、いよいよ電子書籍版をAmazonのKindleストアよりリリースすることになった。
12月早々を予定しており、現在データを整形中。

電子書籍は基本的にEPUB3に準拠したものを用意して、それをKindle用のMobi形式に変換して販売する。予定価格は500円。
当面はAmazonのKindle版のみ。

内容は、過去記事を加筆したもので、より詳細に説明している。
添付の画像は表紙と広告。
友人のグラフィックデザイナー氏のご厚意に甘えた。

特に専業作家ではなく、実力があるわけでもない自分が、会社員を続けながら作品を書くために、その創作業務を試行錯誤しつつカイゼンしてきたノウハウを一冊にまとめたものだ。
この本が、小説を書こうと志す方たちの気づきのきっかけになればうれしい。


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# by hajime_kuri | 2015-11-26 23:32 | 小説指南 | Comments(0)
 小説を書きながら気づくことがある。私の体験からお話ししよう。

 私には「自転車の夏」というタイトルの自伝的青春小説があるのだが、それを書いているときの体験である。
 物語は、主人公の栗本肇が大学に入学し、少林寺拳法部に入部してからの半年間に、私自身が三流私大の四年間で体験した体育会の、それも武団連合と称されるような強面の運動部での壮絶な、でも爆笑な日々を凝縮して描いたものである。

 主人公の性格を描写するエピソードが以下の文。

 自転車が長い坂を下っていく。
 肇の自転車の隣には少し遅れて都築の自転車が並んでいた。肇の自転車は、実に頑丈な作りである。フレームは鉄で、その上ブレーキはワイヤーではなかった。サイクルといえばスポーツとか青春とかをイメージするのだが、このサイクルは正に自転車と呼ぶのが相応しく、むしろ寿司とかラーメンをイメージさせるのだ。
 みんなから出前自転車などと馬鹿にはされていたが、重い上に変速ギアがないだけに下り坂は速かった。
 この「出前号」は、下宿生活の足として入学時に両親から買ってもらったものだ。本当は倍ほどの値段のスポーツ車が欲しかった。フレームの材質はクロームモリブデンで重量も半分以下。ドロップハンドルもスポーティーな十二段変速というやつだ。母は生協の自転車売り場で、二台を見比べ、「お前はこういう派手なものは嫌いだろう」と言ってこの実用車を選んだのだ。親の期待に反して公立大学に落ちた身でもあり、肇は黙ってその自転車で我慢していたのだった。
 「常に願望は程々にしておく」という性格、肇自身はこれを長男根性と頭の中で命名していたが、それが身についてしまっていた。
 友人たちから出前号と言われる度に、そんな自分の一面を指摘されるようで嫌な気分になった。
 今では、四年間この自転車で通してやる、という歪んだ決意さえ抱いている。これもやはり長男根性かもしれない。

 私は、主人公の「長男根性」を象徴するエピソードとしてこの自転車を出したのだが、その後、この無骨な自転車は随所で登場する。

 国鉄東海道線の上に架かる跨線橋にさしかかった。歩行者・自転車用の急な斜路になっている。半分ほど登ったところで自転車を降りて押さねばならなかった。とても上までは駆け上がれない。

 主人公の体力的な成長を描写する道具として使っていたこの自転車が、やがてエピローグにも登場する。描いていたマンガが選外佳作として雑誌に載ったと聞いて本屋に急ぐシーンである。

 東海道線に架かる跨線橋が見えてきた。自転車用に斜路にはなっているが、歩道橋なみの急斜面だ。いつもは半分ほど登ったところで自転車を降りて押していた。
 肇はサドルから腰を浮かすと、ペダルを踏んだ。
 ぐいぐいと加速する。
 (今日こそ上まで行ってやる)
 「出前号」は勢いをつけて斜路を駆け上がった。半分まで登って勢いが落ちそうになったところで立ち上がり、一歩一歩踏み締めるようにペダルを踏み、じりじりと登る。
 スポーツサイクルならギアを落とすところだが、あいにく「出前号」は実用自転車だ。もともと変速ギアなどというしゃれたものはない。
 ぎしぎしと悲鳴を上げる「出前号」に、肇は心の中で叫んでいた。
 (がんばれ、がんばれ、俺もがんばる)
 ほとんど止まりそうになりながら、ついに前輪が斜路を登りきった。
 (やった!俺は合宿で確実に強くなっている)
 そして、ふいに肇はこの無骨で決してスマートではない不器用な「出前号」に強い愛着を感じているのに気づいた。
 ああ、こいつは俺自身なんだ。
 そう思うと何だかこの自転車を褒めてやりたくなった。
 (ようし)
 ペダルに一踏み力を加えると、肇は思い切って体重を後ろにかけた。
 その瞬間、「出前号」はその姿に似合わず、ぐいっ、と前輪を持ち上げると、見事なウィリー走行をやってのけたのだ。
 目の高さで回るスポークにキラキラと陽光が反射する。「出前号」は胸を張って「どんなもんだい」とでも言っているようだった。

 私は、このエピローグを書きながら、「運動神経がいいわけでもなく競技者になるわけでもなく、決してイケメンでもない主人公」と「変速ギアがついているわけでもなくスマートでもない出前用自転車」は同じなのだと気づいたのだ。
 書いている段階で、この作品のタイトルは「月影砕くる東海に」という私の母校の逍遥歌のタイトルを付けていたのだが、この気づきの後、迷わずに「自転車の夏」にした。

 この気づきの後、小説や映画を見たときなどに、物語や主人公の心などを象徴化(シンボライズ)するモノを発見する目が養われた。そして作品の中に意図してそれを仕込んだりする技巧も覚えたわけである。

 実際に作品を書かなければ気付きはやってこない。

 (※)現在、この作品は「薔薇の刺青(タトゥー)/自転車の夏」としてAmazonのKindleストアで販売中である。


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# by hajime_kuri | 2015-11-22 16:35 | 小説指南 | Comments(0)
電子書籍PRフリーペーパー
「北極大陸 第12号」 無料配信開始!

今回、私は12月リリース予定の電子書籍「小説指南」の案内と試し読みです。

北極大陸EPUB版ダウンロード
北極大陸mobi版ダウンロード

北極大陸第12号以降を読むためにはEPUBリーダーが必要です。
EPUB版の場合。
iOS端末(iPhoneやiPadなど)やMacであれば、iBooksで「iBooksで開く」を選ぶとライブラリーにコピーされます。
iBooks

Android端末はダウンロードしたEPUBデータをタップするとGoogle Play Booksが起動します。

WindowsはAdobe Digital Editionsで読むことができます。Macにも対応しています。
Adobe Digital Editionsインストール手順はこちらを参考にどうぞ。
https://helpx.adobe.com/jp/digital-editions/kb/8409.html

mobi版の場合。
iOS端末やAndroid端末の場合は各OSに対応したKindleアプリを利用してください。
一旦PCにダウンロードしたmobiファイルをsend to kindleで任意の端末に送るか、直接コピーしてください。

iOS版Kindle
https://itunes.apple.com/…/kindle-ben-dian-zi-…/id302584613…
Android版Kindle
https://play.google.com/store/apps/details…

WindowsやMacであれば、それぞれの専用Kindleアプリを利用してください。

Kindle for PC
http://www.amazon.co.jp/gp/feature.html?docId=3078592246

Kindle for Mac
http://www.amazon.co.jp/gp/feature.html?docId=3077089416


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# by hajime_kuri | 2015-11-05 22:21 | 俺の作品 | Comments(0)