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「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

「池袋ウエストゲートパーク」(石田衣良)文春文庫

「池袋ウエストゲートパーク」(石田衣良)文春文庫_a0003784_204532.gif 1998年の作品を何で今更、などと言う声が聞こえてきそうだが、私は基本的に自分で買う本は文庫本と決めている。というか文庫本しか買えない(涙)。
 ということで、発表年度は気にしないでいただきたい。

 一人称のハードボイルドミステリーは文体というか語りが命だ。久しぶりに文章のリズムで酔わせてくれる作品に出会った。それがこの「池袋ウエストゲートパーク」だ。




 "俺の名前は真島誠。去年、池袋の地元の工業高校を卒業した。"っていうか、今をときめくクドカンのテレビドラマでみんなおなじみだろう。
 物語は、池袋の西口公園をホームグラウンドにする誠が、色々な事件の解決を頼まれ、Gボーイズのキング・タカシや、一風変わった友人たちの協力でそれを解決していく、というもの。
 ハードボイルド一人称というと、一昔前は一度何らかの挫折をした「世を拗ねた」ようなはぐれ物が探偵役というのが定番だった。事件を解決しても達成感や満足感ではなく、「悲哀感」とか「無常感」が漂うのがカッコイイと思われていた。
 基本的に、この作品も「達成感」とかはない。でも、ならばこのある種爽やかな読後感はなんだろうと考えた。
 誠は、決してエリートではない。でもそれを挫折とか失敗とかまるで感じていない。仲間と生きる日常を愛している。そして、もう一つ、彼は基本的に温かい奴なのだ。引きこもりの友人の家に通ったり、心を病んだ少年の友人になったり。それ故に周囲の連中(チンピラ・ヤクザ・風俗嬢・警官など)から愛されているのだ。
 おまけにこの作品群には、本当に「嫌な奴」というのはあまり出てこない。悪い奴は出てくるが、基本的に悪い奴は「悲しい奴」である。それもまたこの物語の読後感を良いものにしているんだろう。
 読んでいるうちに、読者も誠たちと同じ、ブクロ(池袋)の不良少年になっている。そんな小説である。
 私は、これがデビュー作という石田衣良の才能に思わず嫉妬してしまいましたよ。(2004-2-13)
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by hajime_kuri | 2004-02-13 20:33 | ミステリ