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「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

紫式部物語―その恋と生涯

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驚くべき事に、著者は外国人、ライザ・ダルビー女史。
これがまた、素晴らしく源氏の世界を描いている。
孫娘が発見した紫式部の回想記のスタイルで、彼女がいかに源氏の物語を書き始め、そしてそれが評判を呼んで中宮彰子のおそばに仕えるようになったかが描かれる。
一人の若い女性の宮中に対するあこがれから生まれた物語が、やがて、作者の成長と共に、当時の女性の恋愛観、人生観、恋する喜び苦しみをタペストリーのように織り込んだ大叙事詩へと変わっていく。
特に感心したのが、ライザさんの美的センス。
中宮に皇子が生まれ禁色となる描写。女官たちが白無垢の制約の中で、折り目や重ね合わせでそれぞれおしゃれをする。その白い着物と女官の黒い髪とのコントラストで、宮中が雪景色の朝のようになる。
このあたり、紫式部日記を元にしてはいるが、祝いの儀式、華麗な宮廷行事の様子が克明に描かれ、同時にそうした華やかさに同化できない自己の内面が鋭く凝視されている。
ライザさん、あんたの脳は立派に日本人だよ。
なんと、彼女は16歳で英訳の源氏に魅了され、日本を研究。大学時代には来日して「市菊」という名前で芸者までやったという。そして、着物の研究で博士号を取得している。
最近は、今年の年末に公開予定の「サユリ」という映画のスタッフになっているという。
物語の最後には、未公開だった、という設定で、宇治十帖の最後に「稲妻」という最終章が与えられている。これはライザ女史の創作だが、素晴らしい結末になっている。
日本人必読。
そして、この素晴らしい作品を書いてくれた作者と訳者に心からお礼をいいたい。
紫式部物語〈上〉―その恋と生涯
by hajime_kuri | 2005-08-28 05:54 | 時代