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「読書記録」を中心に、読んだ本、見た映画の記録、書評、ブックガイド、その他日常の徒然ね。


by hajime_kuri

6年前の没企画「ラジオドラマ」編

6年前に某ラジオ局の開局記念番組を提案したいという知人の依頼で書いたシノプシスがこれね。なかなかいい話だよ。舞台は岐阜の某商店街。
特番をいくつもセールスする余裕ないとのことで没。

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■ キネマ通り商店街
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 ◆ 第一話
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 僕はタカシ。商店街に住む小学生だ。こいつは友達のマルオ。ちょっとのんびりしてるけど人の気持ちのわかるいいやつ。こちらがヒデオ。SFばかり読んでる頭でっかちだけど、何かしら面白いことを考え出す天才。
  この三人でいつもこのキネマ通り商店街を遊び回っているんだ。
  なぜキネマ通りなのかって?
  それはこの通りにたくさんの映画館があったからなんだ。
  商店街のお年寄りに言わせると、
  「昔は、東京浅草の六区と並び称されたものだ」
  なんだってさ。
  第一話では、この物語に出てくる登場人物たちエピソードを交えて紹介するよ。
  それと商店街の色々な情景を案内するつもり。
  なんたってヒデオは、商店街の廃墟マップを作っているからさ。
  ヒデオの地図で、もうすぐ廃墟の仲間入りをしようとしているのが、商店街の一角にある日の出アパートメント。もう八十年も建っている。来年の春には取り壊される予定なんだけど、最近は色々な怪現象が起きているんだ。死んだはずの人が歩いていたり、誰もいない部屋からラジオの音が聞こえたり。一階で喫茶店をやっている時田さんは、「この建物も臨終間近じゃから、おおかた昔の夢でも見とるのだろう」と笑ってる。時田さんの喫茶店はお父さんの代からの店で、昭和の頃からまったく変わっていない。お客は滅多に入っていなくて、ランチタイムかどうかに関わりなく、いつでも焼きそばやラーメンを出してくれる、そんな店。ずいぶん昔に奥さんが亡くなってからはマイペースで、つまりあまり商売っ気もなくってことだけど店を開いているんだ。
  時田さんは面白いじいさんなんで、僕たちは時々、おしゃべりに行くんだ。機嫌がいいとジュースやお菓子を振る舞ってくれる。
  そんな商店街のクリスマスイブ。地元のラジオが開局五十年を迎えた日に、この事件は起きたんだ。きっかけはアパートの地下室をの掃除を時田さんにまかされたこと。僕たちはお小遣いに誘われて、その掃除を手伝うことにした。だって何十年もしまっていた地下室の倉庫なんて、魅力的だろう。
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 ◆ 第二話
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 倉庫の掃除で、僕たちは変なモノを沢山発見する。足踏み式のミシンとか、氷式の木製冷蔵庫とか、家具調のテレビとか、時田さんが子供の頃に、少しずつ姿を消したものがいくつもあったんだ。きっと昔のアパートの住人が、残していったものがいつまでもこの地下室で眠っていたのかもしれない。地下室の中だけ時がとまっていたみたいなんだ。
  そこで僕たちは一台のトランジスタラジオを見つけだした。象牙色のプラスチックのボディで、ロケットみたいな流線型。ヒデオに言わせると、昔に、こんな流線型が流行した時代があったんだってさ。レトロじゃん。
  マルオがゲーム機の電池を抜いて、ラジオにセットした。スイッチを入れて、電波を拾いかけたとき、ぐらりと地震が起きたんだ。ラジオの音が一瞬ゆがむと、突然放送の声が「開局」の放送に変わる。
  「過去の電波を拾ったんだ」
  なんだか外が騒がしい。僕たちは外へ出たみた。びっくりするような人出だ。
  「お祭りみたいだ」
  商店街は喧噪にあふれている。チンドン屋が通り過ぎる。商店街には演歌が流れている。閉まっていたシャッターの店が開いている。駐車場が消えて木造の店が現れている。
  「過去にきたみたい」
  「でもアーケードはちゃんとある、コンビニも」
  商店街は、過去と現在が入り交じるなんとも不思議な空間になっていたのだ。
  僕たちは商店街を歩き回る、時田さんが過去を解説してくれる。
  駄菓子屋まで来たときに、時田さんが驚いた。
  「おばちゃんが生き返っている」
  そして、はっと気づいた時田さんは、「店に戻る」と叫んで駆け出した。
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 ◆ 第三話
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 店に帰った時田さんは、死んだはずの奥さんに迎えられた。
  同様の出来事が、商店街のそこここで繰り広げられている。
  お年寄りの中には、この出会いを喜ぶ者も多かった。
  「夢だ、夢のようだ、醒めないでほしい」と。
  そして僕たちは、過去と混在するエリアが、徐々に拡大していることに気づいた。
  ヒデオは時田の言葉を借りると「商店街全体が、アルツハイマー症のようにまだらな昔の記憶を辿っているんだ、そして僕たちはその中に閉じこめられている」と言った。
  やがて商店街の外側に路面電車の鐘の音が聞こえ始める。ことは商店街だけでは収まらなくなったのだ。
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 ◆ 第四話
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 僕たちは、もう一度事態を思い起こす。地震が原因だろう。その時にラジオが過去の電波をとらえた。このラジオで現代の電波をとらえれば、商店街の時間のゆがみを戻せるかもしれない。僕たちが引き起こしてしまったことなら、僕たちで何とかしなきゃ。
  ラジオを持ち出そうとする僕たちに時田さんは言う。「このままにしないか」と。せっかく巡り会えた奥さんと、もう分かれたくないのだ。
  でも、それは間違っている。死んだ人は死んだ人なんだ。時田さんも寂しそうにうなずいた。
  僕らはラジオをあわせ始めた。でも聞こえてくるのは過去の電波ばかり。
  「このエリアはすでに過去に取り込まれているんだ」
  ラジオを持って僕たちは外へ出た。どこかで必ず現代の電波を拾うんだ。
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 ◆ 第五話
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 混沌の街の中をラジオを持ってさまよう僕たち。ある老人の「五十年前、そのものなのにアーケードがあるのは奇妙だという言葉に耳をとめた。
  「アーケードができたのは四十年前で、五十年前にはアーケードはなかったんじゃ」
  頭上のアーケードを見上げる僕ら。
  「あのアーケードの上なら、過去に浸食されていないんじゃないか」
  ヒデオが叫んだ。
  僕たちは、日の出アパートメントに戻った。そして階段を上がりアーケードの上に出る。アーケードの上のキャットウォークに出ると、アーケードはいつもと同じ赤錆た姿で足下に横たわっている。
  「ここは、過去に犯されていないよ、エリアから出られた」
  ラジオを点けて、夜空の下を歩いていく。
  十二月の空気は寒いけど、星はきれいだ。
  「五十年前も同じ空だったのだろうか」
  そのとき、ラジオが電波を拾った。
  「開局五十周年、おめでとう、」
  「現代の電波だ」
  主題歌が流れ出す。
  「見て」
  アーケードの下では、幻影の過去が、霧が薄れるように消えていく。あれだけいた人並みが消え、年老いた商店の主たちが、呆然と立ち尽くしている。
  時田の前から奥さんの姿が消える。
  「別れは二度めの方がつらい」と時田。
  「見て、商店街が夢から覚める」
  「僕たちも年を取ったら過去の夢を見るのだろうか」
  「でも、僕たちはまだ見ない」
  「僕たちが見る夢は、明日の夢だよ」
  主題歌、ひときわ大きく流れて、おしまい。

薔薇の刺青(タトゥー)/自転車の夏・栗林元
小説指南・栗林元
by hajime_kuri | 2018-05-24 14:44 | 俺の作品