「東京島」桐野夏生
2009年 12月 30日
第四十四回谷崎潤一郎賞を受賞した傑作である。
いやもう一読するや、風呂もトイレもページから目を離せないというおもしろさである。
物語は漂流モノである。32人の人間がたどり着いた無人島。主な語り手は、唯一の女性・清子(すでに初老といってもよい四十台後半)。作者は女性だけに、女という性の逞しさを直視している。この作品の中で一番強い存在こそがこの清子だからである。
物語の登場人物や小道具には各種の暗喩も埋められていそうで、ストーリーの進行にも母系社会から父系社会への移行なども暗示されていたりする。
漂流モノというと「二年間の休暇」(いわゆる「十五少年漂流記」ね)と、それをネガティブに反転させた名作「蠅の王」(ゴールディング)があるが、この作品はどちらかとうと「蠅の王」寄り。スリリングでテンションが高い作品である。
以前、当ブログで同じく桐野作品「OUT」に言及した際にも書いた覚えがあるが、かつてブルーカラーの青年や、鬱屈した勤労者のために大藪春彦の作品があったのだが、今や鬱屈した女性のために桐野夏生の作品がある、といっても良さそうな気がする。本当に「男前」な作家であるよ。
東京島
蝿の王 (角川ホラー文庫)
二年間の休暇(上) (福音館文庫)
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by hajime_kuri
| 2009-12-30 17:03
| ミステリ